2024年2月9日(水)、堀江貴文さんと野口聡一さん(IISE 理事)が登壇される、”宇宙ビジネスをどう日本の成長産業にしていけるか”を語るIISE フォーラム 2024「知の共創で拓く、サステナブルな未来へ」が開催されました。
日本の宇宙ビジネス
アメリカ・ニューヨークに本拠を置く世界的な金融機関グループ”モルガン・スタンレー”によると、世界の宇宙産業規模は2040年には1兆ドル以上に拡大するとされています。
日本政府は、昨年11月に宇宙航空研究開発機構(JAXA)に10年で1兆円規模の「宇宙戦略基金」を設置することを発表。民間の宇宙開発を促進し、国内の宇宙関連市場を2020年4兆円から、2030年代に倍の8兆円へ倍増させる方針を打ち出しました。
アメリカではSpaceXをはじめとした民間企業が、スターリンク等の一般向けサービス提供を既にはじめています。
そんな中、日本は宇宙ビジネスをどう成長産業としていくことができるのか。
実際に宇宙事業を手掛けるインターステラテクノロジズ株式会社の堀江貴文さんと、国際社会経済研究所(IISE)の野口聡一さんと、日本の宇宙ビジネスの成長シナリオを探っていく基調講演となりました。
株式会社国際社会経済研究所(IISE)は、生活者の視点と社会の視点を持ち、中立な立場で課題を探索し、そこで得た「気づき」をもとに、世界の多様な期間や団体と協働しながら、未来への市場戦略を提示するThought Leadership活動を推進する、NECグループの独立シンクタンクです。
なぜ、今「宇宙」なのか?
インターネット産業と宇宙産業
「宇宙」=「夢があるもの」という印象を持つ方が多いが、今「宇宙」=「事業」である、
と堀江さんは話します。
1996年ライブドアを創業した当初、インターネット事業を取り囲む環境が今の宇宙産業の状況と非常に似ていました。
当時はインターネットといえば、研究の分野で使うものという認識で、インターネットって何に使うの?という多くの質問が来ていました。ところが今では、スマホを使い、誰でもインターネットを使っている。今や生活になくてはならない存在となっています。
今、宇宙産業がそのようになりつつある、と堀江さんは予測します。
スターリンクがみせたビジネスモデル
現在、スターリンクは5000機以上が地球の低軌道上にいます。
スターリンクは能登半島地震の際の通信復旧対応についても大きく貢献し、有用性に注目が高まっています。
スターリンクの特長として、通常の地上通信基地局や、静止衛星を介した通信回線と異なり、低軌道を周回するスターリンクの通信は地球との距離が近い為通信の遅延が小さくなります。
また、地上で回線を引きづらい山間部や、採算の取りづらい人口の少ない地域でも地球全域をカバーすることができます。
この強みを活かし、地震や災害時の緊急時に通信を可能にするビジネスモデルを、KDDIとの連携で可能にしました。
ロケット開発の重要性
このスターリンクの功績の裏には、沢山のロケットが打ち上げられたからという土台があります。100回以上、スターリンク打ち上げ用のロケットをSpaceXが打ち上げられたからこそ、スターリンクがビジネスモデルとして成功することを可能にしたと言えます。
人工衛星を使用した宇宙開発を支える足腰となるのが、ロケット開発事業なのです。
宇宙産業を支えるロケット開発
国内プレイヤーの重要性
このようにロケット打ち上げの需要が高まる一方で、ロケット需要のほとんどは海外流出しています。
2022年国別のロケット打ち上げ回数はアメリカ84回(SpaceX)、次いで中国、に対し2022年の日本のロケット打ち上げ数は、イプシロンロケットの失敗もあり残念ながら0回でした。
このようにロケット打ち上げについて、日本は国内の需要の51%しか国内でカバーできていないのが現状です。
今年2024年は、先日H3ロケットの打ち上げが成功し、おおいに盛り上がりましたね!
このように、ロケット打ち上げ需要を今後国内でカバーできる国内プレイヤーが増えていくことが宇宙開発事業の鍵となります。
ロケットを作って何をするのか
これまでのロケット開発のビジネスモデルで唯一成功していたのは、テレビの衛星放送(CS)です。静止衛星の商用利用は、ここしかありませんでした。しかしスターリンク衛星により、宇宙空間と地上を繋ぐインターネット通信のビジネスモデルが見えてきました。
- 高度の低い軌道上への人工衛星
- 宇宙に巨大な基地局
これを実現することで、宇宙空間と地上とのブロードバンド通信が可能となり
僻地の地上局でも使え、災害時等地上のケーブルに何かあっても対応ができるインターネット通信ができあがります。
インターネットのバックボーンが宇宙に置き換わる時代が来ています。
これを実現する為、人工衛星を打ち上げる為に、高頻度のロケット打ち上げを成功させる必要がある。ロケット開発事業は新しい宇宙開発事業の支えとなっています。
ロケットとサーキュラーエコノミー
ロケットは、燃料を短時間で大量に使用します。
堀江さんのインターステラテクノロジズ株式会社開発しているロケットZEROは「液化メタン」を燃料とする、地球環境に良いロケットであることが特長です。
北海道は世界でも有数な酪農地ですが、この家畜によるメタンガスについては
地球温暖化の原因と言われており、二酸化炭素(CO2)の約25倍の影響があると言われています。
この部分に着目し、バイオメタンを使用した「液化メタン」を燃料とするロケットを開発しています。世界で民間企業で初となる、取り組みです。
地産地消でサステナブル、化石燃料を使わないサーキュラーエコノミーなロケットの開発ということで注目が集まっており、カーボンニュートラルへの貢献が期待されています。
宇宙産業で何ができるのか
宇宙産業の可能性
宇宙産業の可能性が注目されている中で、堀江さん野口さんお二人は、このような新しい技術・未来の産業について、見えていないものを説明することは難しいと話します。
堀江さんから野口さんへ、実際に宇宙へ行くと見えてくるものがあるのか?という質問に対して、野口さんは「見えてくるものと、見えてこないものがある」と続けます。
世界でも宇宙産業は注目されており、野口さんが参加された世界経済フォーラムでも、「宇宙産業」というカテゴリは、第四次産業革命としてAIと共に扱われるほど世界の関心度は高いです。
世界が大きく形を変える、キーテクノロジーのひとつとして「宇宙」があり、新しいアプリケーション市場への期待値が高まっています。
現在の宇宙産業の形は、約20年前のインターネット黎明期と似た状況で、まさにこれから始まる時代の入口に立っているのです。
既存のテクノロジーが新たな価値を生み出す
スターリンクの技術が現実となり、産業構造の次の段階として、今のインターネットの姿、普段やり取りしているデータが、宇宙で行われるという形に変化していきます。
相互で関連しながら、既存のテクノロジーが、新たな価値を生み出すこととなるのです。
例として、光格子時計の話があります。
既存のセシウムの原子時計が約3000万年に1秒ずれていくのに対し、光格子時計は300億年に1秒のズレしか起きない、非常に正確な時計です。
これは、青色レーザーがなければ生まれなかった技術であり、ノーベル物理学賞を受賞された中村修二さんが青色LEDを実現し、青色レーザーがあったからこそ、実用化されてうまれたものです。
例えばこの技術をGPSに応用することで、より正確な位置情報を入手することができます。
野口さんからは、「宇宙の情報は時間x距離x速度で表すことができる。時間の精度があがり、詰め込める情報が増えるということは、速度の情報があがることであり、宇宙の謎に迫ることに繋がる」と声を弾ませます。
このように、既存の技術との組み合わせにより、新しい産業の可能性を生み出すことができるのです。
「夢」から「現実」になってきた「宇宙」
世界が注目している宇宙産業、この新しい産業を支えるのがロケット開発です。
ロケット開発は、産業の総合格闘技と比喩されるほど、様々な部品、技術の最先端を集め、沢山の企業、沢山の人が協力し合う必要があります。
こうした宇宙産業に多くの企業、人々を巻き込むことで、様々な波及効果により新たな価値を創成しています。
今、宇宙産業という新しい産業において、時代の転換期であり、まさに産業構造が変わっていく流れの中にいます。
世界が注目している宇宙開発ビジネスという未来の大きな産業市場の中で、今後の日本の宇宙ビジネスの成長と可能性に期待がされています。