株式会社レゾナック(社長 CEO:高橋秀仁)は、宇宙線 (*1)によって発生する電子機器の誤動作(ソフトエラー)を低減する新たな半導体封止材の評価実験を、2025年秋を目標に国際宇宙ステーション(ISS)で開始します。

この実験は、米国の民間宇宙企業Axiom Space(*2)へ委託しており、2025年4月には、評価用半導体チップを搭載した動作評価装置を、ISSでの材料暴露実験装置(MISSE)に設置済みです。装置は秋に打ち上げられ、ISSにて運用が始まる予定です。
この新しい封止材がソフトエラーの低減に有効であると確認されれば、宇宙向け半導体の性能向上だけでなく、地上用チップの宇宙用途への転用といった応用の可能性も広がります。
背景:高まる宇宙での半導体ニーズと課題
過去10年で人工衛星の打ち上げ数は約11倍に増加し(*3)、今後も拡大が見込まれています。これらの衛星には高度なデータ処理能力を求められることから、プロセッサ(半導体)が搭載されています。
しかし、宇宙向けのプロセッサは信頼性を最優先しており、地上で使用されるプロセッサに比べて演算性能が制限されているケースが多くあります。
一方、近年では小型月着陸実証機「SLIM」のように、着陸地点を自律的に選定する技術や、通信の高速化を目指す「スターリンク」など、衛星の機能高度化が進み、それに伴って高性能な半導体の需要も高まっています。これに伴い、宇宙線によるソフトエラーの対策は急務となっています。
レゾナックの取り組み:宇宙線に対応する半導体封止材の開発
この課題に対して、レゾナックでは宇宙線に含まれる中性子(*4)を吸収する素材を配合した、半導体用の新たな封止材を開発しました(*5)。中性子はソフトエラーの主因とされる粒子で、この素材によって中性子の影響を和らげることが期待されます。
地上での評価試験では、基本的な回路構造であるフリップフロップ回路を使った実験で、ソフトエラーの発生率を約20%低減できるという成果を確認しました。
今後はこの素材を搭載した半導体を、ISSのMISSEで実際に動作させながら、宇宙空間におけるソフトエラー低減効果を検証します。宇宙特有の放射線環境下での評価により、より現実的な性能データを取得し、宇宙向け材料に求められる特性の明確化と、高性能半導体材料の開発に役立てる予定です。
今後の展望と意義
この実験で新素材の効果が実証されれば、地上用の半導体チップをそのまま宇宙向けに活用できる可能性が広がり、宇宙用半導体の製造コスト削減や高機能化に大きく貢献します。
ソフトエラー対策には様々な手法がありますが、封止材の工夫によって低減が可能となれば、設計の簡素化にもつながり、周辺機器のコスト削減にも寄与します。
社内コミュニティ「REBLUC」による推進
この取り組みは、レゾナックが2022年に設立した社内コミュニティ「REBLUC(Resonac Blue Creators)」によって推進されています。REBLUCは、社員が自発的に活動を企画・実行する仕組みであり、今回は宇宙関連の社会貢献に関心をもつメンバーが中心となって進めています。
今後は、人工衛星や宇宙データセンター、さらには月面基地やローバー向けの半導体材料への展開も視野に入れており、レゾナックは「化学の力で社会を変える」というパーパスのもと、宇宙開発への貢献をさらに強化していきます。


文中の注釈
- 1 宇宙空間を飛び交う高エネルギーの放射線。アルファ線、ベータ線、中性子線、陽子線などの粒子放射線と、ガンマ線やX線などの高エネルギー電磁放射線がある。
- 2 米ヒューストンに拠点を置く、世界初の民間宇宙企業。人類の宇宙飛行サービスから月や低地球軌道での活動に適した次世代宇宙服まで、幅広く展開している。
- 3 内閣府宇宙開発戦略推進事務局「宇宙輸送を取り巻く環境認識と将来像」資料2
- 4 陽子とともに原子核を構成する無電荷粒子。電子機器の半導体に衝突すると、ソフトエラーを引き起すことが知られている。
- 5 特許出願番号:特願2025-051405、特願2025-051331
Resonac(レゾナック)について
レゾナックは、2023年1月に昭和電工と旧日立化成が統合して発足した機能性化学メーカーです。 2024年度の半導体・電子材料の売上高は、約4,500億円に上り、特に半導体の「後工程」材料では世界トップクラスの企業です。2社統合により、材料の機能設計はもちろん、自社内で原料にまでさかのぼって開発を進めています。社名の「Resonac」は、英語の「RESONATE:共鳴する・響き渡る」と、Chemistryの「C」の組み合せです。今後さらに共創プラットフォームを生かし、国内外の半導体メーカー、材料・装置メーカーとともに技術革新を加速させていきます。詳しくはウェブサイトをご覧ください。