NASA/ESA のハッブル宇宙望遠鏡が撮影したこの画像には、くじら座の方向、地球から約28億光年先にある銀河団 Abell 209 が写っています。明るい楕円銀河を中心に、青みがかった渦巻銀河や、かすかに伸びた遠方銀河が多数確認でき、銀河団の重力が背景の光をわずかに曲げる重力レンズ効果の痕跡も見て取れます。

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銀河のあいだに潜む「見えない成分」
この画像に写るのは百個を超える銀河ですが、銀河間の「空間」は空っぽではありません。そこにはX線でのみ見える高温の希薄ガスが満ち、さらに光と相互作用しないダークマター(暗黒物質)が大きな割合を占めています。宇宙全体では、およそ通常物質5%、暗黒物質25%、暗黒エネルギー70%と推定されており、銀河団はこうした見えない成分を探るための重要な実験室となります。
レンズ歪みから質量分布を描く
Abell 209 の画像には、輪のような派手なレンズ像は見えませんが、細長く引き伸ばされた背景銀河が散在しています。こうした微妙な歪みを統計的に測ることで、銀河やガスだけでなく、暗黒物質を含む総質量の分布を地図化できます。ハッブルの高分解能と高感度は、宇宙の構造進化や暗黒エネルギーの謎に迫る観測に欠かせません。
参考・出典
- NASA Image Article「Hubble Snaps Galaxy Cluster’s Portrait」(2025年7月18日公開)
https://www.nasa.gov/image-article/hubble-snaps-galaxy-clusters-portrait/ - ESA/Hubble Picture of the Week「Portrait of a galaxy cluster」(potw2527a)
https://esahubble.org/images/potw2527a/ - 画像クレジット:ESA/Hubble & NASA, M. Postman, P. Kelly
原文筆者:NASA Hubble Mission Team(Goddard Space Flight Center)
翻訳:宙クリップ編集部