日本科学未来館(館長:浅川智恵子、以下「未来館」)は、詩人・谷川俊太郎さんが企画・構成を手がけた唯一のプラネタリウム作品『夜はやさしい』を、2025年7月2日(水)から12月27日(土)まで再上映いたします。

詩と星空が融合する、心に響く映像体験
本作品は、谷川さんの原案によって2009年に初上映され、以後およそ7年間にわたり未来館で多くの来館者に親しまれてきました。世界各地の星空、そこで聞こえる音、そして夜に寄せられた詩の言葉が織りなす、詩情あふれる映像体験を通じて、地球という広大な存在とその中にいる自分自身を改めて感じられる構成となっています。
詩の朗読は、俳優・麻生久美子さんが担当。谷川さんが本作のために選び、書き下ろしも含めてまとめた詩を、彼女の澄んだ声でお届けします。
谷川俊太郎さんと未来館の歩み
谷川さんと未来館との関わりは、2005年に公開されたプラネタリウム作品『暗やみの色』に始まります。この作品において、ダークマターなど「見えない宇宙」をテーマとした内容にあわせて、「闇は光の母」という詩を寄稿されました。
その後、谷川さんご自身の提案により、「まるでその場所で夜を過ごしているかのような、音と詩で世界の夜を旅するプラネタリウム作品」を構想され、自ら構成・演出にも深く関与する形で『夜はやさしい』が誕生しました。

世界6地域の“夜”を旅する
作品では、ヨーロッパ、アフリカ、南米など6つの地域を舞台に、それぞれの夜を描きます。自然の音、人々の暮らしの喧騒、音楽や動物の鳴き声など、地域ごとの多彩な音が星空とともに映し出され、詩がその情景をつないでいきます。
名作『朝のリレー』を彷彿とさせるような“夜のコラージュ”として構成された、詩と映像と音の融合です。
16年の時を経て、色あせない魅力
16年の時を経てもなお色あせることのない本作品は、子どもから大人まで、年齢を問わず心に残る「一篇の詩」のようなプラネタリウム体験を提供いたします。
開催概要
作品名 | プラネタリウム作品「夜はやさしい」 |
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スケジュール | 2025年7月2日(水)~12月27日(土) 1日1回16:20から上映(本編約25分) |
休館日 | 火曜日(ただし、祝日や春夏冬休み期間などは開館の場合あり) 年末年始(12/28~1/1) |
料金 | 常設展+ドームシアター 大人940円、18歳以下310円、未就学児100円 |
上映会場 | 6階 ドームシアター |
※鑑賞にあたっては事前予約が必要です。
予約は2025年6月25 日(水)から、下記サイトにて
見て聴く夜 谷川 俊太郎

少年時代に見たプラネタリウムは東京の夕暮のスカイラインから始まったのですが、そのとき流れるのがバッハの<G線上のアリア>、音楽とともに空がだんだん暗くなって星が輝き始める、それが私の宇宙を感じる原体験のひとつになっています。青空の下で聞く物音や音楽と、星空の下で聞くそれとでは、ずいぶん大きな違いがあるように思います。少年時の感動を再現したいという個人的動機からスタートして、このプログラムは夜の視覚空間と聴覚空間のいわば詩を媒介にした化合…を目指します。
(2009年公開時に制作したリーフレットより)
「夜はやさしい」について
世界の6つの地域(アジア、ヨーロッパ、アフリカ、南アメリカ、北アメリカ、オーストラリア)のある夜の様子を、プラネタリウム投影機「MEGASTAR-II cosmos (メガスターツー コスモス)」によるリアルな星空と、フィールドレコーディングで収録された各地のリアルな環境音で再現。谷川さん書下ろしを含む自選の詩に導かれながら、世界の夜を旅していきます。あたかもその夜、その場にいるような感覚を通して、人々が星の下でさまざまな思いをめぐらせてきた“夜”という時間をとらえ直し、地球と宇宙の広がり、そしてその中にいる自分の存在を改めて感じられるプラネタリウム作品です。
再上映にあたってのメッセージ
谷川 賢作さん (挿入歌「夜はやさしい」作曲)

父の発案の「夜はやさしい」にそっと身を委ねると、決して、ことばで書かれたものだけが「詩」ではないのだと、気付かされる。地球に生きる鳥たち、動物たちの鳴き声、様々な人々のお喋りと歌や踊り、風の音、波の音。この愛しい惑星の、全ての音たちのハーモニーで奏でられる「音の詩」を、まるで、そっと神が見守っているかのような、星々の瞬きも「光の詩」。
時々、お気に入りの車椅子に腰掛け、静かに夜空の星々を見上げていた、晩年の父の後ろ姿を思い出します。それら全ての「詩」を指揮していたのかな、微笑みながら。
日本科学未来館 毛利 衛 名誉館長 (「夜はやさしい」監修)

16年ぶりに「夜はやさしい」を見て胸をつかれたのは、「耳をすませていると文字を忘れる」という一節でした。祝いの宴の太鼓と波音が交じり合うセネガルのにぎやかな夜の場面に添えられた言葉です。言葉に対して物理学者のような厳格さを持っていると感じた谷川さんが“文字を忘れる”ほどに、地球上には豊かな音が鳴っていて、自然や我々の存在そのものの大きさを教えてくれる。そのことに気づいた今、より一層この作品を味わえるようになった気がします。
Tender is the Night MAP ~本作でめぐる“夜”の風景

出発地の東京から世界6カ所にわたり、各地の夜空がドームスクリーンに映し出され、あたかもその夜にその場所にいるかのような音場が観客を包み込みます。☆は星空の見どころです。
1.インドネシア バリ島 12月 【アジア】
数万のヒンドゥー寺院があり、「神々の島」とも呼ばれる地。210日というバリ暦では、毎日どこかでお祭りがあります。60年ぶりの豊作を祈る祭りのガムランの音が、田んぼから聞こえるにぎやかな蛙の声とまじり合います。
☆小さな星が寄り添うように集まる「すばる」。インドネシアでも昔から農作の目印です
2.ドイツ ミュンヘン 6月 【ヨーロッパ】
バイエルン州の州都。夜のビヤホールには人が溢れ、広場では音大生のストリートミュージシャンたちが音楽を奏でています。ソプラノの澄んだ歌声が響き渡り、街角はまるで劇場のようです。
☆ドイツでは“大きな荷車”と呼ばれる「北斗七星」。北極星の周りをめぐり天頂まで昇ります
3.セネガル ダカール 3月 【アフリカ】
アフリカ大陸最西端にある国で、ダカール・ラリーの終着点。かつて奴隷たちが船に乗せられたゴレ島は今は世界遺産に。三日三晩続く祝いの宴、タムタムの音に、子供たちのはしゃぎ声と悠久の時の詰まった波音が重なります。
☆オレンジ色の1等星アークトゥルスが輝く「うしかい座」。そのモデル、天を担ぐ巨人アトラスは山脈として知られています
4.ブラジル バイーア 1月 【南米】
バイーア州・サルヴァドールは、ブラジル音楽の中心地。年越しのフリーコンサートには、世界的なミュージシャンが帰国して登場。30万人が集まり、皆一晩中歌い踊ります。
☆南半球では夏に見られる「オリオン座」や「おおいぬ座」。シリウスから南に向かうと「大マゼラン雲」が浮かびます
5.アメリカ ニューオリンズ 4月 【北米】
ミシシッピー河のほとり、ジャズの発祥地とされる音楽の都。この街でルイ・アームストロングは生まれ育ちました。静かに船が行き交う昼間の河畔とは一変、夜のバーボンストリートには、にぎやかなライブ音楽が溢れ出します。
☆赤いアンタレスとその周りの星が釣り針のように連なる「さそり座」。天の川が濃く見えるこの辺りが銀河系の中心方向です
6.オーストラリア アーネムランド 12月 【オーストラリア】
オーストラリア北部にある、アボリジニの村。自然と一体となった伝統的な暮らしが続く地域です。夜の歓迎の儀式では、ディジュリドゥの音が大地にこだまし、波と虫の音とともにゆっくりとした時間が流れていきます。
☆全天88星座の中で最も小さい「みなみじゅうじ座」。天の川に穴が空いたように見える場所の正体は、暗黒星雲です
クレジット(敬称略)
原案・詩・ナレーション構成 | 谷川 俊太郎 |
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監修 | 毛利 衛 |
朗読 | 麻生 久美子 |
フィールドレコーディング サウンドデザイン | 川崎 義博 |
挿入歌 | 「夜はやさしい」作詞 谷川 俊太郎 作曲 谷川 賢作 |
宣伝写真 | 川内 倫子 |
協力 | 株式会社谷川俊太郎事務所 |
企画・制作 | 日本科学未来館 |
プラネタリウム投影機 「MEGASTAR-IIcosmos」について
約1,000万個の恒星を投影します。2004年に設置された当時、「世界で最も先進的なプラネタリウム」(※)としてギネス世界記録に認定されました。2025年3月の改良によって星がより鮮明になり、最新のデータにもとづいて作られた恒星原板(星の位置と明るさを忠実に再現した特殊なガラス板)を用いることで、さらにリアルで美しい星空が再現できるようになりました。
(※)現在の記録タイトルは「プラネタリウム投影機により投影された星の最多数」に変更されています
ドームシアターについて

高輝度RGBレーザー4Kプロジェクター2台による全天周・超高精細立体視映像システムと連動したプログラムを上映することで、空気感や気配までも感じられるような、明るく鮮やかな映像をドーム型スクリーンに映し出します。
(「夜はやさしい」は3D作品ではありません)