南極点で宇宙ニュートリノ観測を強化 IceCubeアップグレード完成、千葉大学開発「D-Egg」検出器を導入

南極点で進められてきた国際共同研究「IceCube(アイスキューブ)」実験のアップグレード建設が完了しました。千葉大学ハドロン宇宙国際研究センターが開発した光検出器「D-Egg」が主要装置として導入され、ニュートリノ観測能力が大幅に向上します。これにより、宇宙から飛来する素粒子ニュートリノの研究は新たな段階へと進む見込みです。

図1 南極点に建てられ掘削のための蒸気がもくもく上るドリルキャンプ: ドリルキャンプは、発電機や氷を溶かしお湯を作る多くのコンテナサイズの装置から成る (photo: Aya Ishihara/IceHap)
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南極氷床に設置された世界最大級のニュートリノ観測装置

IceCube実験は、南極点にある米国アムンゼン・スコット南極点基地の氷床内部に設置された、世界最大規模のニュートリノ検出装置です。2011年から本格観測を続けており、南極氷床の深さ数キロメートルの領域に埋設された光検出器を用いて、宇宙から到来する高エネルギーニュートリノを観測しています。

この装置では約5,160台の光検出器モジュールを氷中に配置し、体積およそ1立方キロメートルに相当する巨大な「氷の検出器」を構成。可視光よりも1兆倍以上高いエネルギーを持つニュートリノを捉えることで、宇宙で起きている極端な現象を探る観測が行われてきました。

これまでに、高エネルギー宇宙ニュートリノの発見や、ニュートリノ放射天体の特定、反電子ニュートリノの検出など、素粒子物理と宇宙観測の両分野において重要な成果を生み出しています。

600台以上の新型検出器を追加するアップグレード

観測開始から約15年を迎えた2026年、IceCube実験では観測性能を向上させるアップグレード計画が実施されました。南極点直下の氷河深部に600台以上の新型光検出器を追加設置し、より高精度な観測を実現します。

今回の建設作業には14か国58機関が参加し、約40人からなる専門チームが約2か月半にわたり南極で作業を実施しました。最大深度約2.6kmの氷を掘削し、新たな検出器を埋設する大規模な作業となりました。

このアップグレードにより、これまで感度が十分でなかったGeV帯(可視光の約10億倍のエネルギー)のニュートリノ観測が可能になります。また、氷の光学特性をより精密に測定できるようになり、観測データの精度向上も期待されています。

図2 D-Egg 検出器:南極点で建設現場に曳かれるそりに乗せられインストールを待つD-Eggと石原教授(左)とColton Hill (前千葉大学特任研究員、現ミュンヘン工科大学) (photo: Aya Ishihara / IceHap)

千葉大学が開発した光検出器「D-Egg」

アップグレードの中心となる装置の一つが、千葉大学が開発した新型光検出器「D-Egg」です。今回設置された新型検出器のうち約4割がこの装置で構成されています。

D-Eggは1つのガラス球の中に上下2方向を向いた高感度光センサーを搭載した検出器で、ニュートリノ反応によって発生する微弱な光を効率よく捉えることができます。上下方向の同時観測により、光の到来方向や強度をより正確に測定できる設計です。

さらに、小径の掘削孔にも設置できる構造となっており、IceCubeアップグレードにおける重要な検出器として導入されました。ドイツや米国で製造された「mDOM」検出器と併用することで、複数のセンサー情報を組み合わせた高精度な観測が可能になります。

D-Eggの研究開発は千葉大学ハドロン宇宙国際研究センターが10年以上にわたり主導してきました。製作責任者である石原安野教授は南極点での建設チームにも参加し、現地での検出器埋設作業にも携わりました。

図3 D-Eggがケーブルにつながれ掘削孔に入っていく様子 (photo: Aya Ishihara/IceHap)
図4 千葉大学でD-Egg開発に従事したメンバーと共に: 埋設直前のD-Egg検出器(中央)を囲んで、左から石原安野教授、牧野友耶(前千葉大学特任研究員、現ウイスコンシン大学)、Colton Hill (photo: Aya Ishihara/IceHap)
図5 千葉大学で開発した次世代高エネルギーニュートリノ望遠鏡IceCube-Gen2に向けた実証機が掘削孔に入っていく様子 (photo: Aya Ishihara/IceHap)

南極点での建設作業

南極での設置作業は、氷を掘削するドリルチーム、検出器を設置するインストールチーム、装置の動作確認を行うコミッショニングチームの3チーム体制で実施されました。

掘削には高圧の温水を使用し、約60時間かけて深さ2,600メートルの縦穴を掘削。その後、氷が再凍結する前に約30時間以内で100台以上の検出器をケーブルに接続して氷中へ設置する作業が行われました。

この24時間体制の作業は2025年11月末に開始され、2026年1月21日、最後の掘削孔への検出器設置が完了しました。

図6ドリル切削と埋設を行う建屋: 掘削孔の位置に設置し、天井から検出器に接続するケーブルを降ろす。左奥にIceCubeのコントロールセンターが見える。(photo: Aya Ishihara/IceHap)

観測開始へ向けた準備

設置された数百台の検出器は、今後数か月かけて動作確認や較正が行われます。掘削孔内部は一時的に水で満たされているため、観測開始には内部の水が再び氷になるのを待つ必要があります。

その後、検出器の通信確認や時刻同期、感度調整、位置測定などを経て、本格的なデータ取得が開始される予定です。観測開始は2026年夏頃が見込まれています。

GeVニュートリノ研究の新たな展開

IceCubeアップグレードでは、約200万トン相当の巨大な検出体積を活かし、GeVエネルギー帯のニュートリノ研究を本格的に進めます。これは水チェレンコフ検出器であるスーパーカミオカンデの約5万トン規模と比較しても非常に大きな観測体積となります。

このエネルギー帯では、巨大恒星の重力崩壊によるブラックホール形成など、宇宙の極限現象から放出されるニュートリノを捉えられる可能性があり、宇宙の進化や素粒子の性質解明に重要な手がかりをもたらすと期待されています。

また今回の技術と知見は、将来的に観測規模を大幅に拡張する次世代計画「IceCube-Gen2」にも活用される予定です。IceCube実験は、ニュートリノ天文学のさらなる発展を目指し、新たな観測時代へと進みつつあります。

宙クリップ

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